日本料理 つきぢ田村

日本でも5本の指に入る和食の老舗「つきぢ田村」。選び抜いた旬の素材と料理人の技が,肥えた舌を唸らせる。

この店に総カロリー750kcalのコースがあるという。日本料理は洋食に比べて油分が少ないとはいえ,脂の乗った魚や揚げ物なども多い。老舗がわざわざローカロリー食に挑む理由は何なのか。三代目主人・田村隆氏の挑戦とその味を確かめてみた。

残された料理に料理人魂が燃える!

築地の一角に店を構える「つきぢ田村」。店の構えはいたってシンプルでモダン。重々しい料亭的な雰囲気はなく,一見(いちげん)でも入りやすい。

この店に,総カロリー約750kcalと,通常の半分ほどの低カロリーコー スがある。750kcalというと,脂の薄い平目やカレイの煮魚定食ほど。鯖だと800kcalを超えてしまう。肉料理のない和食でも,なかなか難しい値 なのだ。このローカロリー和食に挑戦したのが,三代目主人の田村隆氏。

「きっかけは,10年前の糖尿病患者のための食事会でした。うちの店を使っ ていただいたのですが,事前に何の説明もなかったので,通常の懐石コースをお出ししました。すると,皆さん,なぜか揃って残すんです。2カンある寿司は1 カン残す,天ぷらは食べない。刺身もトロは残す。会食が終わってみると,きっちり半分残っていた。これは,料理人としてはショックですよ」。

会食後,糖尿病患者への食事指導の会だと説明された。「院長は“外食は害 食”だと教えている方でした。適正なカロリーにするためには残すことを覚えなければならないと。この言葉に,なんというか,逆に燃えたわけですよ」と田村 さんは笑う。「外食でも体にいいものを提供できるはずだ。病気の方でも安心しておいしく食べられるものをつくってみせる。それが料理人の使命です」。

その料理が今,目の前にある。つきぢ田村の三代目が生み出した日本料理の真髄。それはローカロリーという,さらなる技が加わっているのだ。

 

さて,まずは前菜。海老手まりずし,エリンギ柚香焼,笹身チーズ焼,茄子色煮,紫菊奉書巻,栗甘露煮,アピ オス(北アメリカ先住民の健康食であるイモ)。海老の赤やチーズの黄色など,鮮やかな紅葉をイメージした料理だ。量もごくふつうで,少なくはない。味付け も素材を生かしたしっかりとしたもの。

次の椀は焼き甘鯛,しめじ,柚子。甘鯛の甘い脂がうっすらと椀に浮いている。柚子の香りが食欲を刺激し,椀の出汁の風味がそれを満足させる。適度な水分も満腹感を促す役割を担っている。

糖尿病患者向けの食事会は田村氏の提案と協力で,“残すための食事”から“楽しむもの”に変 わっていった。「10年前からですから,もう56回開催しています。最初に出した料理は約1440kcalでした。私は料理人ですから,それまでカロリー を考えて料理を作ったことはありませんでした。ただ,おいしいものをおいしく出したいという一念だったのです」。

だから,栄養士の試食,データ化などは正直いって面倒だったが,田村さんには,もともと料理人としての蓄積された知識や料理法が備わっている。それを駆使することで,ほぼ750kcalのコースが出せるようになった。

「最初の会食は皆,暗かったんですよ。食べたいものも制限されているわけですから。それが,次第に,大声で笑えるような会になった。おいしいものを食べさせるのが生業の私としては,うれしいですよね」。

 

 

食材を選ぶことでカロリーは減らせる

椀の次は造り。まぐろ,鮃,北寄貝。まぐろはトロではなく赤身だが,「おい しいまぐろの赤身はやはり旨い」と,田村さんは料理人ならではの素材の目利きに気を配る。確かに,まぐろならではの,ふわっとしたいい香りがする。鮃の鮮 度を感じる歯ごたえの良さ,北寄貝らしい海の香り。

そして,焼き物は鰆の朴葉包み。上に乗った雲丹がゴージャス感を誘う。朴葉の中には細く刻んだ野菜のけんちん焼を入れ,ボリュームと鰆の旨みをうまく引き出している。

酢物には炙りかます,菊花,酢蓮根に人参ソース。実はここまでで,かなりおな かがいっぱいになってきた。日本料理には甘い,辛い,酸っぱいなど五味という味わいの基本がある。それに香りのドレスアップで味わいの幅がぐんと広がる。 柚子の香りにはじまり,だしや朴葉の香り。加えて,刺身の冷たさ,焼き物や椀の温かさ。刺激が重なって,舌と胃を満足させる工夫がある。

「素材を変えることでカロリーはすっと落とせるんです。刺身に赤身を使う,焼き物に鰆を使うだけで,ずいぶんと変わるんですよ。ただ,いい素材でないとだめです」。10年の試行錯誤で身につけた技がここに生きている。

 

あつあつトロトロの食感でさらに満足感を

定番の日本料理にあって,この低カロリー和食にないものがひとつだけある。それは「揚げ物」。てんぷらに代表される揚げ物はどう考えても油分が多い。とはいえ,あのあつあつ感がはずされてしまうのは,なんとも惜しい。そんなことを考えているところへ,煮物が出てきた。

小さな土鍋に入った煮物らしからぬ煮物。蓋を取るとぐつぐつと煮えたぎってい た。百合根,銀杏の入った湯葉むし。てりのあるべっ甲あんがあつあつに煮えている。やけどしそうなあんと湯葉を口に入れると,濃厚なだしのあじわいと湯葉 のとろとろ感が広がる。てんぷらよりもこの食感と熱さのほうが,ずっと胃を満足させてくれた。

この時点でかなり満腹なのだが,軽く止に大葉雑炊と香物。よく発酵が効いているので香物もおいしい。

 

喜ぶ笑顔と出会いが食事を完成へと導く

最後に,果物のピタヤ(サボテンの実)と「黒蜜をかけた秘水ゼリー寄せ」, おうす(抹茶)が出る。甘みで締めることは,さらなる満腹感,幸福感を呼ぶ。秘水ゼリーはアガーパウダーという粉寒天が材料で,ぷるっとした味わい。カロ リーはゼロだ。秘密は秘水にあるのだが,それは食べてのお楽しみに。

「会食に毎回来られるおじいちゃんがいて,最後に出すお汁粉や甘味をすごくおいしそうに食べるん です。甘いものが好きなんでしょうね。笑いながらありがとうっていわれると,やっていてよかったなあって本当に思うんですよ」。人に喜んでもらいたい,そ んな料理人の情熱が,日本料理の伝統をさらに発展させる原動力になっているのだろう。

食事をさらにおいしくする秘訣は,夫婦,家族,友人どうしで,会話を愉しみながら食べることと は,田村さんがすすめる最後の味付け。つきぢ田村の低カロリーコースは,2名以上で前日まで予約すれば食べることができる。年代を問わず,皆が安心して食 卓を囲めるローカロリー日本料理の技と味に驚嘆してほしい。


店舗名
日本料理 つきぢ田村
営業時間
昼 11:30~15:00 夜 17:30~22:00 土・日・祝日 11:30~22:00
定休日
平日(臨時休業あり)
食事の時間
ディナー
住所
  • 〒104-0045 東京都中央区築地2-12-11
  • TEL:03-3541-2591/1611 FAX:03-3541-0021
  • お電話でのお問い合わせ、ご予約は、午前10時以降にお願いいたします。
  • おすすめポイント
    • 東京|築地にある日本料理のお店。五味調和の心得のもと各種宴会、昼の小懐石から各種季節料理までご用意いたしております。
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    日本料理 つきぢ田村

    By on 2014年5月27日

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